■ 選評−アニェゼ・トロッキ
conch.jp
このプロジェクトのどこに打ちのめされたかというと、そのシンプルさと美しさである。”conch.jp”のつくりはシンプルであり、シンプルな視点からリアリティを見せてくれる。人の足取りや石ころ、雨、陽ざし・・・日常のものたちが、Flash言語を用いて詩的に構成されている。鑑賞者には自然のパターンが提示されるのだが、その方法のシンプルさによって、パターンの中に潜んでいる詩的なものたちが強調されているように思える。”conch.jp”は、“機械の中の幽霊”は確かに存在していて、それが機械の中のみならず、いたるところに存在していること、とりわけ我々の眼の中に存在しているのだ、ということを我々に確信させたという点で、大賞に相応しい作品であるといえよう。
Self-Portrait
ネット上には人の顔の画像が溢れている。その画像の海の中を探検してみよう。迷子になってしまわないためには、顔認識がいかにして行われているのかというポイントを知ることが必要だ。このプロジェクトは、“人間の百科事典”というものを夢見させてくれる。Flickr上でEthanの顔と同じ特徴のものを探すという明快な発想は、我々にネット上にある人の顔画像の無限の海を探検する動機を与えてくれる。
何もEthanと同じ特徴の顔が見つけられなくてもいいのだ。参加者は、誰もがEthanになることができるということ、また、誰もが他の誰にでもなれるということを発見することだろう。
thedisagreeinginternet.com
このプロジェクトはすごい。ユーザーが探検していくのはインターネットそのものなのだが、それが普通のインターネットではなく、ひどくご機嫌斜めなインターネットなのである。ただひたすら“NO”を突きつけてくるのだ。これは一体何に対しての“NO”なのだろうか?そこが重要だ。我々の礼を欠いた訪問時の態度だろうか?それとも日々アップロード・ダウンロードされる大量のゴミ情報や広告に対してだろうか?はたまた秘かに行なわれているデータ・マイニングやソーシャル・ソフトウェアによる操作に対してだろうか?もしかしたら検閲に対して?もしインターネットが今日も“NO”と言えば、明日はストライキかもしれない・・・、というようなことを我々は真剣に考えなくてはいけないのかもしれない。
clouds of clouds
“雲をアーカイブする”という夢想的な発想が、このプロジェクトでは実現されつつある。というよりも、インターネットがそれを実現している。Web 2.0によってインターネットは、徐々にあらゆるものについてのアーカイブになりつつある。”clouds of clouds”では、その瞬間ごとに、ネット上の雲の画像を呼び出してクラウドを作り出すことができる。そこで生まれた雲のクラウドは収集され、今度はクラウドのアーカイブが作成される。これはどこまでが可能なのだろうか?”clouds of clouds”は情報を詩的に整理し、螺旋となって我々の心の中を滑っていくようだ。 |