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展覧会場
netarts.org 2008
    大賞受賞作品
    優秀作品
    選考委員会

     

    ■ "conch "
    ■ http://www.conch.jp/
    ■ 片山義幸(日本)

    ■ 選評−スーザン・ヘイゼン

    conch

    なんだか恋に落ちるときのような感覚だ。チラと見ただけでお腹がくすぐったいような気分になり、色々なことが次々と明かされていくにつれどんどん夢中になっていく。

     まず“Land Clock”には惑わされた。色と動きによって移動し続ける風景の中へと引き込まれながら、次第に何が起こっているのか理解していく。時間が刻々と流れてゆくのが目に見えて、その流れのあまりの速さに、実際に手を伸ばして時を止めてしまいたくなる。今まで生きてきた中で様々な時計を見てきたが、時が私から逃げ流れてゆくかのような感覚を得たのは、この作品でが初めてだった。

     でもこれで終わりではないのだ。まだ開いていない左端の4つの灰色のタブの数だけ、片山の魅惑的なconchの世界の層が待っているのだ。それぞれの層とその中の仕掛けたちがひとつずつ姿を現すにつれ、例のお腹のくすぐったさは増していくようだ。

     ”Marked Site”では、鑑賞者は草の上や石だらけの道、落ち葉の森、小石の浜辺などを、誰かの足どりを追って進んでいく。これは私の足跡なのだろうか?サクサクとした足音が自分のもののように聞こえ、そんな錯覚に陥っていく。ここでもまた、時は刻一刻と進んでいく。私の靴跡、または素足の足跡の一歩一歩に、時が刻まれていっている。でも一体どこへ向かっているのだろう?遠くに聞こえる子どもたちの笑い声から、のんびりとした道のりにあるということは推測できるのだが、どこへ向かっているのかは誰にも分からない。

      この世界の中では、鑑賞者は決して孤独ではない。私たちは明らかに他の誰かの世界の中に入り込んでしまっていて、即座に一人で道を歩いているということに気づかされながらも、自分が何らかのシステム;総体的な全体の中のホロンの一部、であることを理解しながらその世界を探訪している。今回のコンペはアーティストたちに「ゴースト・イン・ザ・マシン」を暴き出すことを求めたものだったが、conchの世界で時が流れるのを体感する鑑賞者自身がマシンの中のゴーストそのものになってしまっても、鑑賞者はその世界の中では決して孤独ではなく、導きの手のようなものが風景の中を案内してくれているということは確かなようだ。

     “Our Hands”では、太陽の光を手のひらでとらえることができる。指示されなくとも自然にモニターの手をマウスで操っていることからして、もう完全にこのインターフェースに慣れていることがわかる。ここでも音響は控えめなのだが、その音をたよりにどのくらい長く陽の光を捕まえていようかと考えることができる。この頃には、もうどっぷりとconchの世界に浸かってしまっていて、次のタブでどんな世界に連れ出されるのか、待ちきれなくなっている。
    “Lined Stone”では、私はもう完全に心を奪われてしまった。カチカチと弾きあう小石の音の中で、小石の迷路を進んでいく。小石に描かれた線の上を進み、新しくぶつかる石が進む道を敷いていってくれている。斜度が変化すると、進んでいる人物もそれに対応して体勢を変えて歩いたり走ったりする。斜面がきつくなってくると、人物は這い蹲るような姿にさえなる。小石たちがぶつかって離れるときの「カチン」という音によって、次の道への橋が無事に架けられ、険しい道も進んでいけると心強い気持ちになる。

     conchのシリーズは“Rain”でしめくくられる。それぞれの場面を雨粒が濡らし、嵐がひどくなるにつれ、それはクレシェンドをむかえていく。conchについて唯一不満に思うことは、終わりがあるということだ。それぞれのシーンは、何度も繰り返し鑑賞することができるし、それらは何度でも同じ不思議な気分をもたらしてくれる。それでも、素敵な気分をもたらすすべてのものがそうであるように、次のものがどんどん欲しくなってしまうのだ。

      受賞した片山義幸さん、おめでとう。そして、この美しく、説得力のある作品を制作してくれたことに感謝!

     

    Clouds of Clouds

     Flickr上の1000000枚もの蜘蛛の画像からなる壮大な雲マトリックスをミニマルに、かつ独創的にレンダリングしたMiguel Leal(コンセプトとコーディネーション担当)とLuis Sarmento(プログラミング)の受賞も、祝福したい。

      前世代のアーティストたちが顔料やアクリル絵の具を用いて表現していたとするなら、今回受賞した彼らは、人類史上最大の画像コレクションのデータベースを持ち出し、そこに“雲”の概念を混ぜ込んで、私たち一人ひとりにとって“雲”という言葉がどういう意味を持つかということからなる、彼ら自身の新しい“メタ・クラウド”を作り出した。鑑賞者は集合の中の雲を次から次へと、飽きることなく何時間も眺めながら、どのように我々が自分たちの世界を共同体として思い描いているか、そして自分たちが“雲”という言葉にどんな意味を持たせているか発見することができるだろう。

    Self Portrait

     インターフェースがバックグランドでスキャンする何千もの画像の中から、ソフトウェアのプロセスはどのように顔写真を判別するのかという疑問を、Ethan HamもFlickrへ投げかけている。Turbulence.orgによるプロジェクトである“Self Portrait”は、マシンによるアートを題材にしながら、鑑賞者にそのマシンの中を覗かせ、その中に潜むゴーストを見つけ出す機会を与えてくれる。アーティストが制作したコードによれば、マシンは放り出されている何千もの画像の中から、Ethanに似たゴーストのみを選び出している・・・ということになっている。

    The Disagreeing Internet

     イライラするし、目が回るし、警告のようでもあるし、そしてなによりも何か悪い予感がする!“The Disagreeing Internet”は私たち一人ひとりに、いかに私たちがすでにこのインターネットという獣に依存してしまっているかということを思い知らせてくれる。そしてそれが私たち向かって首を横に振ることによって、マシンそのものが私たちにむけて浮かべている嘲りと非難めいた冷笑に気づく。私たちに“NO”と言うとは何様のつもりだ!