粉川哲夫/「アート・オン・ザ・ネット」展ゲスト・ディレクター

 今回、従来の数を上回る100点余りの応募があった。締め切りが、テーマの 9月11日の直後であったからかもしれない。9月11日後の応募もかなりあっ た。選考の方法を変えたことはどうだったのだろうか? われわれとしては、実 は、こちらの方により関心がある。というのは、わたしは、9.11事件の根源に、 あくなき競争原理の行き着く果てを見ているからである。

 スポーツは、戦争や闘争の欲望を解消する代償行為だという解釈がある。しか し、いくら代償しても、その欲望自体が存在するかぎり、戦争や闘争は終わらな い。だから、せめて、そうした欲望を、代償してごまかすのではなく、相対化 し、それに対して距離がおけるものにできないものか? それは、まさに、互選 というArt on the Net では前例のない「選考」がはじまる今後に課せられた課 題である。

 明らかに、「9.11」とは関係のないと思われる、あるいは、便宜的な「リサイ クル」と思われる応募作もあった。しかし、そうした応募作も、ルールからはず れるもの以外は、上述のような理由により、そのまま候補に残した。Art on the Net 2002の本番は、これからである。かつてない創造的な結果が出ることを期待 したい。


箕輪裕/町田市立国際版画美術館メディア・アート担当学芸員

 今年のプロジェクトの概要が決定されたとき、私には心配なことがあった−− −9.11という社会的なテーマと、「互選」という美術館のプロジェクトにお いては非常に希な(私は前例を知らない)システムを、アーティストたちが受け 容れてくれるだろうか、ということである。

 それらが杞憂であったことは、幸いなことにすぐに明らかとなった。もちろ ん、9.11のような出来事に関心を持つこと、そして、それについて各個人が 意見を表明し、お互いに批評しあうのは、特別なことではないのである−−− 「アートの世界」の外部においては。だが、「アートの世界」においては、それ らは今日でも一般的とは言えないように思える。それゆえ、多くのアーティスト の参加を得ることができたことは、うれしい驚きであった。

 アーティストには今回、プロフィールと写真を表示することを要請した。ネッ トの上であっても、9.11のような重要な社会問題に向けて真剣に発言する場 合、匿名であることは本当に適当なことだろうか? もちろん、個人情報の公表 を控えるアーティストの主張も充分に理解できる−−−しかし、わたしたちの要 請に真摯に応えてくれた多くの勇気あるアーティストの存在を考えたとき、匿名 であることを選んだアーティストの参加を受け付けることはやはりできなかっ た。また、応募要項に定められた要件を満たしていなことが明らかな作品も、今 回のリストには含まれていない。

 このように多くのアーティストの参加を得たことによって、このプロジェクト は既に、少なくとも「アートの世界」においては大きな意義を備えている、と言 うこともできるだろう。そして、これから行われるアーティスト自身による互選 という新しいシステムの潜在力が引き出されたとき−−−このプロジェクトは、 「アートの世界」の外部においても、何か重要な意味を持つ存在となり得るので はないだろうか?