netarts.org
展覧会場
netarts.org 2006

     

    ■ "Soundtransit"
    ■ http://soundtransit.nl/
    ■ デレク・ホルツァー、サラ・コルスター、マーク・ブーン (オランダ)

    ■ 選評−スーザン・ヘイゼン

     「サウンドスケープ」というものは、ネットにとっては目新しいことではないけれども、独自のアーカイブに1000以上もの異なった音源を納めていることで、このプロジェクトは抜き出た存在となりました。

     もちろん、「サウンドトランジット」はそれだけのものではありません。その作品の歴史を見ると、このウェブサイトは、「蓄音機の回遊 #3 サウンドスケープ=FM」として始まり、それはドイツのストラルサントで2004年に開催されたガレージ・フェスティヴァルで公開されています。この実験的なコラボレーションは、アーティストによれば、続いて2005年に「ベルリン サウンドスケープ=FM」のウェブサイトで、ドイツのメディア・フェスティヴァルである「トランスメディアーレ」のために公開されました。初期のサウンド・ワークはベルリン市内で録音され、オンラインのデータベース、ローカルなFMラジオ、そしてウェブ放送として利用可能となりました。

     「サウンドトランジット」は、そのオンライン・アーカイブを更に一歩進んだものとしています。それはつまり、「ローカル」なサウンド・ファイルを作ったり、分け合ったりするためのコミュニティを創り上げたのです。そのファイルは、目新しい方法で分配されます。このプロジェクトの背後にいる作者のデレク・ホルツァー、サラ・コルスター、そしてマーク・ブーンは、わたしたちを、彼らのアーカイブを通って彼らと共に旅をしよう、と誘ってくれますが、それは、彼らの広範囲なサウンドスケープを通って、それをわたしたち自身の方法で編集し、ミキシングして遊ぶことなのです。

     その旅は全世界に及ぶものですが、しかし、到着することは単なるゴールではありません。そこに行くこと自体が魅力的なこととなり得るのです。旅する男の人も、女の人も、自分たちでルートを決めるように、と招待されますが、それは、お仕着せのルートを決めてくれる典型的な旅行代理店や航空会社を想起させるようなインターフェースの上に描き出されます。それぞれの途中下車地点は、そのサウンドスケープにおける中心点となり、そして蓄音機のような演出は、それぞれの地域のローカルな色彩や手触りを反映するものなのです。

    このプロジェクトが個人参加方式であることは、その人だけの出来事が、それぞれの、そしてすべての旅人に約束されている、ということです。そして、それで遊んでいる間は、音を混ぜ合わせることはそれだけでも充分に面白いし、ルートを計画して創り上げることは、満足をもたらすもの以外の何ものでもありません。人々を緩やかに編まれた血縁関係へと引き込むウェブ2.0のサービスや環境のように、この独特で束の間の結びつきは、わたしたちが気ままに飛び込み、抜け出すことのできるコミュニティーを創り上げています。

    ["mongrel" /優秀作品]

     わたしは"mogrel"を優秀作品に推したいと思いますが、この作品は、興味深いクロス・メディアのプロジェクトであり、街角での個人同士の間のニュースやゴシップを次々に廻す「歩道のラジオ」というアイデアからもたらされたものです。コラボレーションや個人参加というウェブ2.0の概念と足並みを揃え、このコミュニティーは、ロンドンに拠点を置くコンゴの人たちの、(携帯)電話を通じた文化的な(音楽とメッセージの)リミックスを配信することを通じて、今日のメディア空間のウイルス効果を活用しているのです。娯楽としてのゲームの名前が出ている時でさえ、実際には、このプロジェクトの背後にはある暗黙の動機が息づいています。

     "mongrel"の明確なゴールは、コンゴの人たちの音楽文化を生き延びさせ、鋭敏にしておくことであり、それゆえ、その新しい配信手法は、そのコミュニティ自身の社会の歴史に深く埋め込まれているものなのです。わたしは、このプロジェクトは、カルチャーとテクノロジーとの間の興味深い交差点を提供しているように感じていますが、それは、新奇でウットリするような方法で二つの縒り縄を一緒にたぐり寄せることなのです。この作品は、それほど厳密には典型的なウェブ2.0の構造に関わっているわけではないけれど、その本質である個人参加には、確かにウェブ2.0の精神が染み込んでいます。

     "mongurel"によれば(中核となるメンバーはリチャード・ライト、マツコ・ヨココージ、メルヴィン・ジャーマン、リチャード・ピエール=デイヴィス、それにハーウッドと、そのグループに連なる多くの人々−マチュー・フラー、リサ・ハスケル、キャロル・ライト、スティーヴ・エジェルとレニ)、"Telephone Trottoire"の目的は、「ロンドンに拠点を置くコンゴの人たち」のコミュニティに、わたしたちの毎日の暮らしに影響を及ぼすような出版物を作らせることだったと言います。"Telephone Trottoire"は、本質的には(ナップスター以降の時代における)メディアの検閲を無視するためにデザインされており、"Telephone Trottoire"を用いてニュースとゴシップを分かち合うことにより、このコミュニティは、ちょっと危険だけど楽しい方法で、この自然発生的な文化の交換を行うことができるのです。

     "Telephone Trottoire"は、"Nostalgie Ya Mboka"と、"Londres Na Biso" いう二つのラジオ番組とのコラボレーションから生まれたものです(www.nostalgieyamboka.net)。