仮想空間とは、モニター上で美しくみえる3D映像もただのビットで形成されて いるような世界である。それは人間の欲望が原動力となって生まれた空間で、生 活空間の産物であり、生活世界の意味を考える格好の場となるといえる。 しかし、仮想空間を利用するとき、我々はインターフェイスを介してやっとその 場に触れることができる。これは壁であり、もしツールがなければ、知覚さえで きないものだ。 仮想空間をあつかった芸術作品は特殊なインターフェースとしてあるべきである。またそれを制作するにあたって作家は仮想空間のノイズに敏感でいなければ ならない。 例えば、エラーという言葉で表されている物は、エラーと呼んではいけない。そ れは現象であり、要素である。仮想空間は人間による産物ではあるが、生活空間 の秩序にはない別の要素があるようだ。その要素は生活空間の秩序に当てはまら ないため我々はエラーとよぶ。 仮想空間でのノイズを内容の劣化としてとらえるのではなく、いち現象として作 品の中で成り立たせ、提示する。人間がその現象を知覚し、認識し、仮想空間ま たはその要素を想像できたとき、生活空間のひとつの意味と捉えることのできる芸 術作品(特殊な体験)となるのではないだろうか。
毛利悠子 / Yuko MOHRI
多摩美術大学卒業後,東京藝術大学大学院にて修士号取得.
人間の知覚できない
磁場などの物理現象を使ったインスタレーションや,コンピュータ内でのデータ
の変換を一つの現象とし,プリンターやモニターが現象をそのまま表示するイン
ターフェイスとみなす作品を制作している.
http://mohrizm.net
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